春に傷負うたひとに

2023.04.06

空から春色の粉が

降りかかって

森の表面はうまれたばかりの色彩に

ひかり、あふれている

 

飼い馴らされた町の桜も

筋書き通りに

ひとが望むままに咲いてみせる

明るさを拒むもののまえでも

大いに花開く

 

季節の輝度があまりにも高いので

その眩しさに負傷したひとが

立入禁止と書かれた防波堤の陰にたたずみ

足元まで打ち上げる荒れた波を

ただただ、眺めている

 

(漂着物の山とぼうぼうの浜大根の草の群。

犬は波に怯えて翁の綱より逃亡する)

 

ここより見える、あの

発光する岬は

いつか

そのまま陸から離れて

どこか遠くへ、この春を運んでゆく

そんなおおきな

船なんじゃないのかな