琴音の坂 2023.03.06 溝の穴は子どもが石ころを投げ込むためにあるもの しゃがみこみのぞきこんで誰もが一度は記憶の洞のなかでちいさく投げ打ったもの 無心に幾度も試すうちに穴の鉄格子がうつくしい音を鳴らすのでこれは鉄琴だね、と響く音に聞き入る ひとつひとつが異なる歌のその窪みの上に割れたみかんは罠にかかりまたそのほかは砂に埋もれて口だけでなんとか息をしている 小石は暗く底の見えない深さへと落ちてどこまでもどこまでも転がり鳴りながら隔たったそれぞれの水辺へと辿り着いてゆく ←前の詩を読む 次の詩を読む→