水無川
2022.08.12
げんきかと問われて
げんきですと返せないまま
ちくたくちくたく
石段をのぼる
げんきなのか聞かねばならないのは
こちらのほうなのに
嘘だとしても
げんきだ、というのが
じぶんのせきにんなのに
げ、ん、き、だ、と発すれば
堰き止められた
すべてのことばを呑み込むようで
また、よけいに
ひとりぼっちになるようで
胸にぶつかってきた
いっぴきの蝉が
黙ったままのでくのぼうの代わりに
大声をあげ
あと数日もすれば消える
その濁声で
しゃぁっしゃっしゃっしゃっしゃ
とわらいながら
げんきもくそもあるものか
と
夏のまんなかに
毒づいてくれる